札幌家庭裁判所 昭和54年(少)974号 決定 1979年6月25日
少年 B・K(昭四〇・二・一四生)
主文
一 少年を初等少年院に送致する。
二 札幌保護観察所長は、少年の環境調整に関し、次の措置を執られたい。
(1) 少年の母親が、少年に対する盲愛的態度を改め、少年の非行原因を正しく認識して、少年の更生自立のために適切な監護教育をなしうるよう、援助指導すること。
(2) 少年の母親が、現在の荒廃した家庭状況を改善し、地域社会に適応できるよう、援助指導すること。
理由
(非行事実)
(編略-別紙犯罪事実一覧表記載の窃盗一九件(被害品、現金合計一四万〇一〇〇円及び自転車など八七点、時価合計二三万一三五〇円相当)並びに窃盗未遂一件)
(適用法条)
刑法六〇条、二三五条、二四三条
(処遇の理由)
一 少年は、一年足らずの期間に一九回に亘る窃盗行為に及んだもので(別紙犯罪事実一覧表の二ないし二〇)、その間一度警察の検挙取調べを受けたにもかかわらず、さらに同種非行を繰り返しており、また主たる動機は、遊ぶための金欲しさにあり、窃取した現金の大半は、飲食費、ゲーム代、雑誌代等に費消し、現金以外の物は、印鑑や免許証なども含めて大半を投棄してしまつている。このような本件非行態様から直ちに指摘できることは、社会規範に対する、少年の極めてルーズな態度、感覚であるが、さらにその背景を検討すると、事態は深刻である。
二 まず少年自身のかかえる問題点をみるに、少年は、中学一年以来怠学を続け、友人も殆んどいないまま、家庭内とその周辺という狭い生活空間の中で、テレビ、雑誌を見たり、テレビゲームをしたりという日々を過ごして来ている。本件非行も、自宅周辺での車上盗、自転車盗の繰り返しであり、他に、これといつた積極的な非行はみられない。要するに少年は、思考力・表現力等の知的能力面、情操面、社会性のいずれにおいても、人格の健全な発達が阻害された状態にあるもので、先に指摘した規範意識の低さは、その一つの結果であると考えられる。
三 次に少年が置かれてきた環境をみると、
(1) 両親の離婚の結果、少年の家庭には、少年が三、四歳のころから父親がおらず、
(2) 母親は、少年保護、社会福祉関係諸機関や学校に対して極めて強い不信感を抱き、また、施設収容少年やその家族に対する社会の目の冷たさを強調するあまり、少年をかばい、盲愛することに終始しており、少年の怠学や非行に対する客観的な認識や適切な指導をなしえない状態であり、
(3) 兄は、少年が小学校入学当時から非行を頻発し、施設収容を繰り返して、現在も中等少年院収容中であり、姉も中学を怠学し、虞犯係属歴があり、現在、内縁の夫とともに少年の家庭に同居中であり、
(4) このような少年の家庭に対する住居地周辺の目は相当に厳しく、少年とその家族は地域において孤立しがちのようである。
このような生活環境が、少年の前記問題点の原因となつてきたのであり、現状は、少年の健全な成長を期待しうる環境ではない。
四 以上の諸点からすると、
(1) 少年に対しては、少年院に収容のうえ、専門家の指導の下に、相応の時間をかけて、人格全般の健全な発達を促すことが必要であり、(なお、少年に対しては、まず教護院送致が考えられるが、保護者たる母親が強硬にこれに反対し、収容されれば直ちに連れ戻すとの態度であるから、長期にわたる円滑で安定した教護は望めないと思われ、その意味で適切ではない)
(2) 母親に対しては、保護観察所において、少年やその兄、姉に対する盲愛的態度や、関係諸機関への一方的な不信感を取り除き、少年らのかかえる問題点について、また関係諸機関の責務と実状についての正しい認識を持たせ、もつて適切な監護、教育に向かうよう援助、指導することが重要である。(そうでなければ、少年院における矯正教育の成果にもかかわらず、少年の更生はその実効性を期し難いであろう。)
よつて、少年院送致の点につき少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項後段、少年院法二条二項を、環境調整の点につき少年法二四条二項、少年審判規則三九条をそれぞれ適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 岡部信也)
犯罪事実一覧表
番号
共犯者
犯行日時
昭和・年・月・日・時分ころ
犯行場所
被害者
被害金品
品名
数量
価格(円くらい)
一
A
五二・一〇・一〇
午後一一・三〇
札幌市○区○○×××番地××コインスナツク「○○○」内
C
現金
一〇〇円硬貨五六枚
五、六〇〇
二
(単独)
五三・六・一
午後七・三〇
同市○○○区○○○×丁目
D
自転車
一台
二六、〇〇〇
三
(単独)
五三・七・六
午前五・〇〇
同市○区○○××××の××○○ハイツ×××号
E子
自転車
一台
一二、〇〇〇
四
(単独)
五三・七末ころ
同市○区○○×××番地○○○マンシヨン横路上
不詳
ラジオカセツト
一台
三〇、〇〇〇
五
(単独)
五三・八・五
午前六・〇〇
同市○区○○×××番地F方物置
G
スケートボード
一台
五、九〇〇
H
スケートボード
一台
三、〇〇〇
六
(単独)
五三・一〇・一午後
二・三〇
同市○区○○×××番地I方前駐車場
I
現金
免許証
つり銭袋
五〇〇円札二枚
一〇〇円硬貨三〇枚
一〇円硬貨五〇枚
一枚
一袋
四、五〇〇
二〇〇
七
(単独)
五三・一〇・一
午後六・〇〇
同市○区○○×××番地××○○荘前駐車場
J子
自転車
一台
一八、〇〇〇
八
(単独)
五三・一〇中旬ころ
同市○区○○×××番地○○○宿舎第×棟西側路上
不詳
ライター
煙草
一個
一個
三、〇〇〇
一五〇
九
B
五三・一一・一四
午後九・三〇
同市○区○○×××番地○○住宅××棟北側路上
不詳
懐中電灯
煙草
一本
八個
五〇〇
一、二〇〇
一〇
B
五三・一一・一八
午後四・〇〇
同市○区○○×××番地K方横空地
L
現金
一〇〇円硬貨五枚
五〇〇
一一
B
五三・一一・二二
午前五・〇〇
同市○区○○××××番地××○○荘前路上
M
被害品なし
一二
B
五三・一一・二三
午後六・三〇
同市○区○○×××番地○○住宅××棟横路上
N
背広
シヤツ
四着
一着
八〇、〇〇〇
一〇、〇〇〇
一三
B
五三・一一・二四
午後三・〇〇
同市○区○○××××番地○マンシヨン駐車場
O
バツグ
メジヤー
ボールペン
営業用フアイル
印鑑
書類
業務用パンフレット
一個
一個
三本
一冊
一本
二〇枚
一〇枚
五、〇〇〇
二、〇〇〇
一〇〇
四〇〇
五、〇〇〇
一四
B
五三・一一・二五
午後一・〇〇
同市○区○○××××番地○○住宅××棟横路上
P
免許証
現金
一枚
一〇〇〇円札三枚
一〇〇円硬貨五五枚
五〇円硬貨四枚
一〇円硬貨三〇枚
九、〇〇〇
一五
B
五三・一一・二五
午後四・〇〇
同市○区○○×××番地路上
Q
現金
免許証
免許証入れ
袋
一〇〇円硬貨三五枚
一枚
一枚
一袋
三、五〇〇
五〇〇
五〇〇
一六
B
五三・一一・二六
午後二・三〇
同市○区○○××××番地○○建設寮前路上
R
免許証
印鑑
財布
名刺入れ
一枚
一本
一個
一枚
五〇〇
一〇〇
一〇〇
一七
B
五三・一一・二六
午後二・四〇
同市○区○○××××番地○○建設寮前路上
S
化粧品
一本
七〇〇
一八
B
五三・一一・二七
午後五・〇〇
同市○区○○×××番地××○○荘前駐車場
T
免許証
化粧バツグ
現金
一枚
一個
一〇円硬貨七〇枚
五〇円硬貨六枚
一、〇〇〇
一、〇〇〇
一九
B
五三・一一・二九
午後七・三〇
同市○区○○×××番地喫茶「○△○」駐車場
U
コート
ズボン
ボケツトカメラ
一着
一本
一台
九、〇〇〇
四、〇〇〇
九、〇〇〇
二〇
B
五四・二・七
午後四・五五
同市○区○○×××番地○○○公園横路上
V子
W
現金
カバン
印鑑
財布
聖書
本
キヤツシュカード
預金通帳
一〇〇〇〇円札一一枚
五〇〇〇円札一枚
五〇〇円札一枚
一〇〇円硬貨>三枚
五〇円硬貨四枚
一個
二個
二個
二冊
三冊
一冊
一枚
一一六、〇〇
一〇〇
二、〇〇〇
一〇〇
五〇〇
一〇〇
〔編注〕 抗告審決定(札幌高 昭五四(く)一七号、昭五四・七・二三抗告棄却決定)